消化器 研究内容

肝臓班――基礎的研究

1. C型肝炎

C型肝炎と脂質とは密接に関係していることが明らかになっている。C型肝炎ウイルスがもたらす生体内での脂質の生理学な変化の影響を探るため、本学医学部分子病態学教室の沢村達也教授のグループとの共同研究を行っている。また、C型肝炎ウイルスの肝細胞における脂質制御メカニズムを解明するため、大阪大学微生物病研究所、高等共創研究院、岡本 徹教授のグループとの共同研究を行っている。

2. B型肝炎ウイルス(HBV)コア関連抗原、HBV RNA測定系

B型慢性肝炎におけるHBVの活動性は通常血中HBV DNAの測定により判定されている。しかし、核酸アナログなどの抗ウイルス薬投与下では、血中HBV DNAはHBVの活動性を反映しない。これは、肝細胞中にcccDNAの形でウイルス遺伝子が残存するためである。このcccDNAの排除は極めて難しく、B型肝炎が難治である重要な要因である。当科では、このcccDNAやここから転写されるHBV RNAに注目した研究を展開している。

3. 自己免疫性肝疾患

日本人における自己免疫性肝炎の疾患感受性にHLA-DR4が関連していることを初めて報告して以来、HLA領域および非HLA領域における疾患関連遺伝子を複数同定し、報告してきた。また、原発性胆汁性胆管炎においても同様な検討を行っている。遺伝的要因の解析により、より特異的な治療法の開発を目指している。

肝臓班――臨床的研究

1. C型肝炎

直接作動型抗ウイルス薬(DAAs)の登場により、C型肝炎の治療は大幅に進歩した。しかし、ウイルス排除後も肝発癌の可能性が残るため定期的な観察が欠かせない。この発癌を予測する因子について、遺伝学的あるいは肝線維化マーカーなどの観点から検討を行っている。

2. B型肝炎

B型慢性肝炎に対して核酸アナログ(NUCs)による抗ウイルス療法が主流となり、発癌率や肝硬変への進展率は著明に改善した。免疫遺伝学的な背景がB型肝炎の病態に与える影響や抗ウイルス療法に与える影響について検討を行っている。

3. 肝がん

肝がんは肝硬変を背景に発癌することが多いが、近年ではC型肝炎(HCV)に対する直接作用型抗ウイルス剤やB型肝炎(HBV)に対する核酸アナログ剤などの治療の進歩がある。一方で、生活習慣の変化による非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)患者の増加があり、肝硬変、肝がんの成因に変化がある。また、近年では新たな分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬による肝がん治療が臨床導入されている。これらの状況を踏まえ、長野県における肝がんの臨床的特徴やその予後を含めた多施設共同研究を行っている。

4. 自己免疫性肝疾患

30年以上前より、自己免疫性肝炎、および原発性胆汁性胆管炎の多数の患者を経過観察しており、治療効果、合併疾患、予後と遺伝的背景との関連を研究している。このような揺ぎ無い土台に立脚した客観的な研究が可能であることは、特に、長野県のような周囲を山々に囲まれ、隣接都道府県への患者および医師の移動が少ない信州大学の特色である。

5. 非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)

NAFLD・NASHは現代社会において高い有病率を誇る疾患の一つである。この疾患の予後に関して肝線維化の重要性が示されている。多くの患者さんの中から肝線維化を有する方をピックアップする方法について検討を行っている。また、この肝線維化が進行しやすい状態について既存の臨床検査所見から推察できるのか、あるいは新規バイオマーカーが有用なのかについても検証をすすめている。

胃腸班――基礎的研究

1. 免疫関連有害事象(irAE)腸炎の臨床病理学的特徴

多様な悪性腫瘍に使用される免疫チェックポイント阻害薬による免疫関連有害事象(irAE)の発症が問題となっており,大腸炎もその一つである.irAE腸炎における組織検体を用いた病理学的特徴を検討し,炎症性腸疾患や他の大腸炎との相違性について研究している.

2. 消化器癌に対する近赤外光線免疫療法(NIR-PIT)

近赤外光を用いた光線免疫療法(NIR-PIT)は2011年に発表され,癌3大治療である手術,化学療法,放射線療法とは異なる新しい癌治療法として期待されている.現在世界中で臨床治験がすすめられており,本邦においても頭頚部癌に対する臨床応用が始まろうとしている.当科では消化器癌に対するNIR-PITの臨床応用を目指し, 消化器癌の腫瘍組織を用いた研究を行っている.

胃腸班――臨床的研究

1. 内視鏡操作法

上部消化管内視鏡の効率的な操作法について研究している.内視鏡治療における効率的で安全な内視鏡操作法としてLoop-forming method(ループ形成法)を提唱し,習得のための練習器具を作成し技術の習得を図っている.

2. Helicobacter pylori感染症

Helicobacter pylori(H.pylori)感染と関連する胃炎,胃癌の発生,除菌治療,除菌後の発癌,若年者におけるスクリーニング検査について研究している.H.pylori感染診断として6点生検および組織培養を行い,胃炎の進展と発癌との関連やより有効な除菌レジメンについて検討している.また,全国に先駆けて高校の健康診断に抗H.pylori尿中抗体検査を導入し,若年者のH.pylori陽性率,胃炎の特徴,除菌治療の安全性,スクリーニング検査の有用性を検討している.

3. 潰瘍性大腸炎の内視鏡所見と組織学的炎症

潰瘍性大腸炎の内視鏡スコアと組織学的炎症の関連について研究している.潰瘍性大腸炎の内視鏡スコアとしてulcerative colitis endoscopic index of severity(UCEIS)を用い,生検組織における炎症との関連や内視鏡スコアおよび組織学的炎症スコアと臨床的再燃やcolitic cancer発症との関連について検討している.

4. バレット食道・食道癌

欧米に多いバレット食道,バレット腺癌だが,近年本邦においても増加してきている.バレット食道・腺癌発生のメカニズム,危険因子,臨床病理学的特徴などを検討している.また,バレット食道癌の多い北米(カナダ)との共同研究も行っている.

5. 消化管原発悪性リンパ腫

胃MALTリンパ腫に対する除菌療法や放射線療法の治療成績,長期予後,消化管原発濾胞性リンパ腫の長期予後などを検討している.

胆膵班――IgG4関連疾患

1. 自己免疫性膵炎

自己免疫性膵炎は、黄疸や腹痛などの症状を引き起こし、ステロイド治療が著効する。当科での研究により血清IgG4という免疫グロブリンが高頻度かつ特異的に上昇することが発見され、膵以外にも胆管、涙腺・唾液腺、肺、腎、後腹膜といった全身の臓器で腫大や壁肥厚、線維化を呈することが明らかになった。現在では、全身性の疾患としてIgG4関連疾患と呼称されており、自己免疫性膵炎はIgG4関連疾患の膵病変と考えられている。自己免疫性膵炎、IgG4関連疾患の長期予後や血清学的所見、画像所見、病理組織学的所見など、これまで多数の報告をしてきたが、病態や適切な治療法の解明に向けて更なる検討を続けている。

2. IgG4関連硬化性胆管炎

IgG4関連疾患の胆管病変は、胆管癌や原発性硬化性胆管炎、その他の二次性硬化性胆管炎との鑑別が重要である。画像所見の詳細な検討など様々な観点からの研究を行っている。

3. IgG4関連動脈周囲炎

IgG4関連疾患では動脈周囲に病変を有する事があり、病変の分布や発症因子について検討を行っている。

胆膵班――膵疾患

1. 膵癌

膵癌は病理組織学的な診断を行うことが時に困難である。腫瘤形成性限局型自己免疫性膵炎との鑑別に注視し、血清学的所見、画像所見、病理組織学的所見について検討している。

2. 急性膵炎

急性膵炎は、アルコールや胆石などが原因で発症し、重症急性膵炎では死亡率10%と報告されている。重症急性膵炎の救命率改善のため、集学的治療が必要であるが、当科では以前より放射線科と協力して蛋白分解酵素阻害薬の動注療法を積極的に施行している。現在、慶応大学を代表とする急性膵炎全体を予後予測評価の対象とした多施設観察研究に参加している。また、東北大学の共同研究として、次世代シーケンサーを用いた膵炎関連候補遺伝子の全国調査にも参加している。

3. 膵外分泌機能

膵臓は、糖代謝に必要なホルモンを血中に放出する内分泌機能と消化酵素を十二指腸に分泌する外分泌機能を有しているが、慢性膵炎や膵癌といった疾患で、こうした膵機能の低下を認めることが知られている。膵から分泌されるエラスターゼという消化酵素の便中濃度を測定し、超音波内視鏡検査(EUS)やMRI検査の所見と照らし合わせ、膵疾患と便中エラスターゼ、EUS、MRIとの関連について検討している。

胆膵班――胆道疾患

1. 胆管癌

胆管癌は診断時、多くが黄疸を有し、内視鏡的な減黄を必要とする頻度が高い。特に肝門部胆管癌では、病理組織学的な診断、進展度診断と共に術式を想定したドレナージ胆管の選定など、多くの判断を必要とする。肝門部胆管癌の内視鏡的処置に関するストラテジーの構築やIgG4関連硬化性胆管炎との鑑別点について検討している。

2. 術後腸管を有する膵胆道疾患

術後腸管の中には、通常の胆膵用内視鏡での処置が困難な症例が存在する。術後腸管を有し胆管結石を始めとする胆膵疾患に対し、小腸鏡を用い胆膵内視鏡処置を行い、時に体外衝撃波結石破砕術(ESWL)を併用し、より適切な治療法を検討している。